何回かのシリーズで「複雑系の科学」と教育について紹介します。
教育を提供する側(先生、ファシリテーター、コーチ、経営者、親御さん)は、この視点を持つだけで、もっと人や組織を多面的に捉え、その可能性に気づけるようになる可能性があります。
また、ティール組織に興味がある経営者は、知っておくべき分野になります。
複雑系とは何か?
複雑系とは、システムを構成する多数の要素が相互作用し、単純な因果関係(線形)だけでは説明できない振る舞いを示すシステムのことです。
多くの場合、システムを構成する要素は、階層化し、上部階層と、下部階層でも相互作用をしています。これをボトムアップ、フィードバックと呼んだり、時には想定していないような上部構造を作る場合は、創発と呼んだりしています。
1つ1つの言葉は、難しいかも知れませんが、私たちは「体験として、複雑系」を知っています。なぜなら、私たち自身の体が「複雑適応系」と呼ばれる性質を持っています。脳や、免疫ネットワーク、体の神経網などが、まさに複雑適応系です。
そして、私たちが形成する社会、チーム、会社、経済、金融システムなども「複雑系」です。
複雑系ではないものは、私たち人間が作った道具や、特定の自然現象を「切り取ったもの」ぐらいなのかも知れません。
教室は、複雑系の要素を持っている
私が大学で教鞭を取っていた頃、毎回不思議に感じていたことがあります。
私は、ある学部の1年生の授業を受け持っていました。その授業は、ランダムに生徒を30人から40人を集めたもので、全部で3クラスに分けてありました。
私が行う授業のテーマは同じですが、教室の雰囲気は、3クラスで全く違います。ほぼ同じ年齢、同じような成績、同じ学部、性別比もほぼ同じ、ランダムに集めたにも関わらず、雰囲気が違うのです。
複雑系の科学で考えれば、クラスの雰囲気とは「集まった生徒の相互作用や、最初のちょっとしたきっかけで、違うものになる」ことは、当然と言えます。
複雑系に対して、どうアプローチするのか?
一方で、教室で生み出される学びは、同じ(線形)になるように、私たち教師は期待します。雰囲気が違っても、似たような到達度に着地させたいと考えてしまいます。
その場合、2つの選択肢があります。
コントロールして、確実に、到達度を目指す(従来教育)
手放し、ファシリテートし、プロセスによって、到達度を目指す(新しい教育)
多くの場合、事前に決めたカリキュラムを通じて、計画的に授業を進めます。課題を出したり、小テストをすることで、何を覚えておくべきか?を確認させたりします。授業に参加する生徒に、自由にさせるよりは、やるべきことを与えて、コントロールし、結果を予測の範囲に収めようとします。
また、生徒同士の協力や教え合い、その他の不確実要素を断ち切り(まさに、複雑系の構成要素を切る)、一方向の情報伝達を徹底する場合もあります。
一方で、全く違う授業の方法もあります。
生徒一人一人が、自分なりに考え、その考えを全体で共有する中で、知識を再構築したり、獲得するような授業の仕方があります。私が、このような授業に出会ったのは、中学3年生の理科の授業と、大学の研究室でした。
この2つ以外は、全て「コントロール型」で、私には、窮屈な授業ばかりでした。
複雑系の授業と、ラーニングデザイン、ラーニングファシリテーション
今後のコラムでは、私が中学3年生だった時の理科の授業を紹介します。
この事例の良いところは、「決められたカリキュラム」であっても、創造性を発揮させるような授業ができることを証明することです。また、最近話題の「探求型の授業」の見本となります。
さらに良い点が、今から30年以上前の出来事です。
あの頃よりも、複雑系科学は進化し、体系化されています。そして、私たち(toiee Lab)が実証実験してきた「ラーニングデザイン」や「ラーニングファシリテーション」によって、経験に頼るだけでなく、体系的に学習することができます。
体系的というのは、説明原理があり、ある程度、結果が予測できるという意味です。ただし、予測できるのは「活性化の度合い」であり、得られる結論ではありません。なぜなら、教える相手は、個性豊かな1人、あるいは多数の人間です。
だからこそ、ラーニングデザインだけでなく、ファシリテーションも必要となります。ファシリテーションによって、その場、その集団でしかできないことを活性化させること、つまり個別対応ができます。
次回予告
30年前の理科の授業における
複雑系
ラーニングデザイン
ラーニングファシリテーション
そして、「正解」があることを、覚えさせるのではなく、探求させる方法と、探求させる意味について、解説します。
まとめ
複雑系の科学という分野がある
学校では習わないが、新しい科学パラダイムであり、あらゆる分野に影響を与えている
教育学には、あまり影響を与えているようには見えない
生徒の集まりである教室は複雑系の要素を持つが、現代の教育システムは、その要素を切り落とし、コントロールすることに躍起になっている
これからの教育、創造性を育んだり、より良い未来を作るのに必要なスキルを学ぶ教育を設計するには、複雑系の視点は必要
toiee Labのラーニング理論、ラーニングデザイン、ラーニングファシリテーションは、複雑系の科学を土台にしている
複雑系の視点で、教室を眺めれば、多くのことに気づくことができる