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私が、プロのバリスタでスタジオを持っていたら動画でお届けしたいところです。しかし私はプロではありません。ですので、文章でお届けします。音声での読み上げもぜひお試しください。
今回は「お湯を注ぐ技術」について考え、お湯を注ぐ技術を例に「ラーニング」についても考えましょう。新しいことを学ぶ楽しさ、ワクワクを刺激できたら嬉しい限りです。
では、早速始めましょう!
間違った学び方
学習の「学」という言葉は、「まねる」から変化したものだとされています。何かを学ぶには、「まねる」ことが有効な手段となることを、過去の偉人たちが知っており、このような言葉を作ったのかもしれません。
しかし、表面上の動作を見て真似をする方法では、大抵は失敗します。これを猿真似と昔の人は呼びました。
例えば、ゴルフを学ぶとき、プロのスイングの連続写真を見て、そのポージングを真似するとします。あるは、スロー再生の動画を見て真似します。大抵は、「なんか変な打ち方」になります。
ゴルフの場合は、変な打ち方になる原因は「回転に関する勘違い」が、主な原因です。多くの人が、ラジオ体操のねじり動作のようにして回転させています。体を回転させる方法は、このねじりだと思い込んでいます。一方で、上手な人は、股関節の折りたたみで体が回転できることを知っていて、これを使います。
この大きな勘違いをしたまま、どれだけ観察して、練習しても上達は見込めません。
お湯を注ぐ技術も同じです。
「YouTubeや、カフェのバリスタの入れる様子を観察し、その表面上の動きを真似する」 やり方では、ほぼうまくいきません。おそらく、不規則な流量で、バシャバシャ注いでしまって、美味しいコーヒーを抽出できないでしょう。
大切なのは「本当にやっていること」「物理的な現象としてやっていること」を知って、それを真似することです。
ということで、「お湯を注ぐ」を深掘りして、その上で、どう練習すると良いか?学習理論から説明をしていきます。
お湯を注ぐ技術を分析する
お湯を注ぐ技術は、「狙った流速をキープして、狙った場所にお湯を注げる技術」になります。狙った場所は、1点に絞るだけでなく、「回転させる」ことも含みます。
これが意外に難しいです。
バリスタは、日々の訓練で、当たり前のように簡単にやってのけます。おそらく膨大な数の練習によって、身につけています。
ところが、私たちのように、多くでも1日3回程度しか入れない場合、膨大な繰り返しで身につけるアプローチは使えません。
そこで「ラーニングを設計する」ことが必要です。つまり、お湯を注ぐ技術をしっかり分析し、一体全体、何をやっているのか?を知ることが必要です。
これにより「少ない回数でも、美味しいコーヒーを淹れられるように」なります。
上級者は、初心者の頃の苦労を忘れているか、知らぬまにできている
どの分野でもそうですが、上級者のアドバイスは、初心者には役立たないことが多いです。例えば、
「よいコーヒー豆」「豆とお湯の比率」「お湯の温度」「挽き目」「よいグラインダーを使う」とすれば、適当に入れても美味しく入る -- 上級者、バリスタ
と言いますが、嘘です。
彼らが、無意識に「さっとできる」お湯を注ぐ技術が、ことのほか難しいです。お湯を注ぐ技術について質問しても、よい回答が返ってきません。
「リラックスして、さーっと回し入れれば良いよ」
という感じのアドバイスです。
おそらく「膨大な練習によって、体で覚えてしまった」から、アドバイスができないのかも知れません。あるいは、単に苦労を忘れてしまったかです。
お湯を注ぐ技術を、自分で分解する
先に説明したように、お湯を注ぐ技術は、以下のように定義できます。
「狙った流速をキープして、狙った場所に(あるいは回転させて)お湯を注げる技術」
狙った流速をキープするには、実は「ケトルの傾きを微調整し続ける」必要があります。お湯の流速は、圧力によって決まります。お湯が減っていくと、自然と圧力が減るので、流速が落ちていきます。
そのため、圧力が一定になるように、傾きを若干増やし続けるような動きが必要です。
このように「仕組み = メンタルモデル」があると、一気に注ぐ練習の質や、効率が高まります。
フィードバックで学習する
お湯を注ぐ技術を身につけるとき、以下を比べたら、どちらが簡単でしょうか?
一点に、同じ速度で注ぐ
回転させながら、同じ速度で注ぐ
もちろん、一点に同じ速度で注ぐ方が簡単です。ハンドドリップでは、回転させながら入れますが、それは応用です。まずは、一点に同じ速度で注ぐことから練習します。
効果的な学習には「効果的なフィードバック」が必要です。
効果的なフィードバックと聞くと、先生からのアドバイスと思う人も多いです。ここでのフィードバックは、もっと広い意味です。定義としては以下の通りになります。
(a) 期待していた結果と、その結果を出すためのプロセス
(b) 実際の結果と、その結果を出すための実際のプロセス
(a) と (b) の差分
これがフィードバックです(意識的な学習では、これに加えて「前提・想定」も含めるようにしますが、ここでは触れません)。
お湯を注ぐ場合で考えてみる
例えば、15秒で60gのお湯を注ごう!と決めます。スケールにコップを乗せて、重さを0にセットします。そして、タイマーを開始し、お湯を注ぎ始めます。60gに到達したところで、15秒になるように練習したとします。
この場合、
期待する結果とプロセス : 15秒で60gを入れるぞ!なんとなく
実際の結果 : 15秒時のグラム数
何度か練習していると、15秒で60gを注げるように、自動的に脳が学習をしてくれます。
ところが、このフィードバックでは、間違った注ぎ方を学習してしまう危険性があります。先ほど、お湯を注ぐ技術の定義は、「狙った流速をキープして、狙った場所に(あるいは回転させて)お湯を注げる技術」としました。
つまり、流速が一定である必要があります。
私たちは、すごく器用なので、スケールの重さ表示とタイマーを見ながら、帳尻合わせをやってのけられるようになります。素晴らしいですが、これが「上達を阻害」します。
重要なのは「一定のスピードで」注いでいたか?を確認できるフィードバックを得ることです。スピードに関する情報を得ないと、目指す技術を習得することができません。
ポイントは 「フィードバックの設計」 にあります。この設計次第で、学べるものが学べなくなります。逆に、学べなかったものも、学べるようになります。
一番良いフィードバック情報は、何か?
流速を可視化してくれるスケールとアプリを使うのが一番良い方法です。acaia というプロのバリスタ用のスケールを使うと、注ぎのスピードがグラフで見ることができます。
アプリと連携すれば、グラフの傾きや、上下を見ることで「スピードが安定しているか、していないか?」を確認できます。
フィードバック情報は「正確、詳細、素早い」と学習に大きく貢献します。
リアルタイムで確認することができれば、「こうやってみよう、ああやってみよう」や「こうやってみたら、どうなるんだろう?」などのアイデアが浮かび、実験することができます。
これが「探求するように学ぶ」です。
しかし、このコーヒースケールは、23,000円もします。こんな高いスケールを買うのは、ちょっと気が引けます。そこで、別の方法でフィードバックを代用したり、設計することを考えます。
予想ゲームによって、学習させる
私たちの脳の学習力、メンタルモデル構築力、推測力は「驚くべきもの」があります。次のような予想ゲームを何度か繰り返すと、思った通りの流速で注げるようになります。これは、脳のパワーをうまく使う学習方法です。
まず、以下のような意識をしてください。
流速を一定にするには、傾きを調整し続ける必要があると意識する
ケトルから出るお湯の太さに注意を向ける
お湯の太さ(流れ感)を一定にする
次に、推測ゲームをします。
スケールにコップを乗せ、重さ、タイマーをリセット(0にする)
適当に「これぐらいで入れる!」と決める(頭でイメージ)
15秒で、何グラムになるか予想する(多い、少ない自由に)
一定速度で入れ続ける意識をして、15秒でストップする
実際の結果を確認する
この流速(お湯の太さ)を、変えて(注ぎ中は一定です)、何パターンも実行します。これは、脳に「サンプル」を覚えさせている状態になります。
お湯のスピード感A なら、15秒で A’グラム入る
お湯のスピード感B なら、15秒で B’グラム入る
・・・
というのを見せておくと、私たちの脳は、勝手に仮説づくり(メンタルモデル構築)を行って、そこから逆算できるようになってくれます。
直感を鍛える練習をする
何回か、サンプルデータを得たら「直感で計算する」ことを鍛えます。
やり方は簡単です。「15秒で60g入れるなら、これぐらい!」と直感で流速を決めて注ぎます。直感で決定する時、意識(思考)が、ごちゃごちゃ言ってくるのですが、体感覚的に「これ!」って思う感じで注ぎます。
ここでポイントは、60gに合わせようとしないことです。あくまでも「一定の速度で入れる」ことです。成功させるのではなく、一定速度を維持して、失敗することを意図します。
注いでみたら、時間が早すぎたり、遅すぎたりすることが多いです。しかし、これこそが学習に必要な失敗です。
早すぎたら脳は「なるほど、このスピード感だと、こうなるのか!」と学び、直感的な意思決定に使うメンタルモデルを再構築してくれます。
先の「流速を決めて、15秒で何グラム入るか?予測ゲーム」と「この流速なら、15秒で60gのはずチャレンジ」を、行ったり来たりしていると、短期間に狙ったように入れられるようになります。
トレーニングが好きなら、15秒縛りや、60g縛りではなく、いろんな秒数、お湯量を練習すると、自在に入れられる幅が広がります。
どれぐらい練習するのか?
「やりたいだけ!」です。これは、すごく重要です。脳が学習する気がある時「やる気」が出ています。でも、思ったよりも進捗がなかったり、本番(コーヒーを実際に抽出する)をやっていたい!となっていたら、さっさと本番に進むべきです。
おそらく本番は「失敗」するはずです。あれ?ってなると思います。
でも、それは「発展途上であること」を意味していて、もっと伸びていく証拠でもあります。
あるいは、「お、以外に美味しい!」となるかもしれません。しかし、初心者の間は、次入れたら、「あれれ」となります。なぜなら、流速の安定がないからです。
「あれれ」となった時こそ、練習したくなるはずです。その時に「やりたいだけ」練習をしましょう。
回転させて入れるコツ
ここまで一点に注ぐ練習について説明してきましたが、実際にコーヒーを淹れるときは「回転させて」入れます。回転させて注ぐのは難しく、思ったところにそそげません。円が汚くなったり、コーヒー豆がないフィルター部分にかかることもあります。
さらに、回転させることで、流速が不規則になります。
流速が不規則だと、「大事な第1投目の蒸らし」が失敗する原因になります。ですので、「回転させているけど、流速が安定している」を目指す必要があります。
どうすれば、習得しやすくなるでしょうか?
先ほど、「流速は、水圧で決まる」と説明しました。回転させると、ケトルの中でお湯に揺れが発生し、波みたいに水深が深くなったり、浅くなったりします。これが原因で、不安定になります。
ということは「水面を安定させる」ように回転させれば良いことになります。
水面を安定させることを学習するためには、どんなフィードバック情報があれば良いと思いますか?答えは簡単です。水面を見ればすぐにわかります。水面を見るために「蓋を開けて注ぐ」ようにしてください。
蓋を開けて、水面もチェックすると良いでしょう。
お湯を注ぐ技術を身につける方法
学習のメカニズムや、お湯の速度が決まる要因など、あれこれ説明してきました。ここでは、ハウツーとして、まとめておきます。
(1) お湯の流速は、どう決まるか?
まずは、メンタルモデル(物事の仕組みについての理解や認識の枠組み)のおさらいです。
流速は、水圧に、よって決まる
流速をキープするには、水圧を一定にする
水圧は、深さによって決まる
速度をキープするには、深さを一定にする
回転させると、揺れによって深さが上下し、流速が上下してしまう
(2) 狙った流速を出せるようになる方法は?
最初は傾きだけ(決めた場所に注ぐだけ)からはじめ、回転を練習する
この流速なら、何秒で、何gになるかを学習する
学習する方法は「実験(探求するように)」で行う
予測ゲームでパターンを学習させる(この流速なら、15秒で何gになる!と予想し、結果を確認する)
ピッタリゲームをする(この流速なら、15秒で60gになるはず!と直感で流速を決めて実行。帳尻を合わせて、正解を出そうとしないように注意する)
予想ゲームも、ピッタリゲームも、秒数、グラム数を変えて行う
予想ゲーム、ピッタリゲームは「やりたい」と思ったタイミングで、「やりたいだけ」実行する
(3) 何度か練習したら、本番をしよう!
粕谷哲さんの「4:6」メソッドで入れてください!!次回説明しますが、「良い豆」を使って、レシピ通りにすることが大切です。
良い豆なら「おいしく入ったか、入っていないか?」が一発で判定できます。自分の腕だけが、味わいの原因になる状況を作ることで、腕を磨くことができます。
道具は、必要十分な性能を備えているものを選んでおけば、技能を伸ばすことにフォーカスできます。この考えは、ゴルフにも当てはまります。ギアを買い替えても、ほぼ何も変わりません。学ぶことを楽しんで、自分の技能を伸ばすことを楽しむことが大切です。
まとめと発展的な学習
上記で、一番の大事なことは説明しました。しかし、実際の学習では、工夫・実験が大事です。例えば、
ケトルの持ち方を変えてみて、入れやすくなるものを探す
足の開き方を変えてみる
手首の角度や、注ぐ角度(上から見た時の角度)を変えてみる
脇の締め具合
指の形
などなど。いろんなところを、小さく変えて、よりよくなるものを探してみてください。練習のために注ぐたびに、小さな実験をしてください。それが当たり前になると、入れるたびに、発見があり、変化があり、学びがあって、「アハ」体験があります。
結果として、学ぶことが楽しくなります。
そして、この取り組みを俯瞰して眺めると、他の分野にも応用できることに気づくはずです。すると、コーヒーを入れることを通じて、ゴルフや、料理の上達のヒントが得られるかもしれません。つまり、これが「学ぶ力をあげながら学ぶ」ということです。
おまけ
ところで、あなたは「なぜ、一定のスピードで入れること」を、これほどまで練習する必要があるの?と思っていませんか?
このような疑問を持つことは、とても大切です。
一定のスピードで入れず、ドバ、ドバ、ドバと不規則にお湯をコーヒー粉にかけたら、どんなことが起こるか?を考えると、一定である必要性がわかってきます。
まずは、自分で理由を考えてみて、それから、調査してみても良いでしょう。調査に、AIを使うのも良い方法です。
次回は、コーヒー抽出のメンタルモデルを解説します。
なお、このシリーズは、「趣味としてのコーヒー」を始めることと、「学ぶことを、思いっきり楽しむ」ことをお伝えしています。学ぶことを楽しみ、学ぶことを楽しむために、学ぶ力も上げていくことが、大切です。
おまけ2
私は、ラーニングデザインを学び、さまざまな教育を分析、再構築できる人材を育成したい!と常々思っています。教育学部に招聘してもらえたら、将来の先生となる人材に、「ラーニングデザイン」を、作って学ばせたいなと思っています。
先人から受け継いだ有用な教えも大事ですが、人本来の学習のメカニズムをベースに、自在にラーニングをデザインできる人材が増えて、現場で活躍するようになったら、教育は大きく変わると確信してます。
ラーニングデザインを学びたい人を見つけて、教えていく良い方法や、人脈などをお持ちの方は、是非、お声がけください!
それでは、次回も続きます!お楽しみに。
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